子どものいない夫婦の場合、お互いに何かがあったときのために夫婦で遺言書を作り合うケースが少なくありません。このように夫婦で相互に作り合う遺言書を、専門用語で「夫婦相互遺言」と呼びます。では、夫婦相互遺言を作るとどのようなメリットがあるのでしょうか。
今日は夫婦相互遺言を作るメリットと、夫婦で相互に遺言を作るときの注意点を3つお伝えします。お互いにお互いの遺産をなるべく多く相続させたいと思っているご夫婦は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
夫婦相互遺言を作るメリット
まずは、夫婦相互遺言を作るメリットからお伝えします。
夫婦相互遺言を作ることで得られるメリットといえば、何といっても遺産の相続分(割合)を指定できることです。特に子どもがいない夫婦の場合、このメリットは想像以上に大きいものでしょう。
仮に子どものいない状態で夫が亡くなった夫婦を想定した場合、法定相続人は「妻」と「直系尊属(ちょっけいそんぞく)」です。法定相続人とは、法律で決まっている相続人を指す言葉。直系尊属とは、祖父母や両親といった自分より上の直系血族を指す言葉です。
もし夫婦に子どもがいれば、遺産は配偶者と子どもで半分ずつ相続します。
※子どもが複数人いる場合は、半分を子どもの人数で等分する
一方、子どもがいない夫婦の場合は、配偶者と直系尊属で遺産を分割することとなります。
この場合の割合は、次の通りです。
- 配偶者 3分の2
- 直系尊属 3分の1
仮に遺産の総額が6000万円だとすると、法定相続分は次の通りです。
- 配偶者 4000万円
- 直系尊属 2000万円
もしも両親が健在であれば、直系尊属の法定相続分である2000万円を両親が半分ずつ相続します。
※ご両親が他界されている場合の法定相続分については、こちらの記事をお読みください
遺言書がない場合の相続ルール!法定相続人に関する注意点は2つ
厄介なのは全ての直系尊属が既に他界していて、兄弟姉妹がいる場合です。実は、兄弟姉妹と遺産争いをするケースは少なくありません。
両親や祖父母などの直系尊属がみんな既に他界していて、かつ兄弟姉妹がいる場合の法定相続分は、次の通りです。
- 配偶者 4分の3
- 兄弟姉妹 4分の1
先ほどと同様に遺産の総額が6000万円だとすると、配偶者の法定相続分は4500万円、兄弟姉妹の法定相続分は1500万円となります。
生前から交流があったりお世話になったりしていたなら、兄弟姉妹と遺産を分割することに抵抗は持たないかもしれません。
ただ、同じ兄弟姉妹でも生前にほとんど交流のない場合がありますよね。この場合、故人としては「兄弟姉妹に遺産を渡す必要はない」や「遺産の全てを配偶者に相続させたい」などと思っても不思議はないでしょう。
そんなときに活躍してくれるのが、夫婦相互遺言です。
夫婦相互遺言を作ることで「遺産の全てを配偶者に相続させる」といった内容の遺言が法的に認められます。
ただし場合によっては遺言が無効になってしまう可能性もあるため、夫婦で相互に遺言を作るときは注意しなければいけません。
夫婦相互遺言を作るときは3つの点に注意しよう
夫婦相互遺言を作るときに注意が必要な点は、次の3つです。
注意点1.「共同遺言」は無効!遺言書は1人1通が原則
遺言を夫婦で相互に作るとはいえ、同じ遺言書に2人の名前を連名で書いてはいけません。連名で遺言を書くと、遺言が無効となってしまいます。
というのも「共同遺言(2人で共有する遺言)」は民法で禁止されているため、法的に認められないのです。
夫婦相互遺言を作るときは2人で1通の遺言書を作るのではなく、1人ずつ別々に作りましょう。
注意点2.法定相続人の遺留分を無視することはできない
法定相続分には「遺留分(いりゅうぶん)」という概念があります。
遺留分とは、相続する資産のうち法定相続人のために残しておかなければいけない割合のことです。
配偶者の兄弟姉妹に遺留分はありませんが、配偶者と子ども、そして直系尊属には遺留分があります。遺留分を無視して遺言書を作っても法的には無効となるため、遺留分については事前にしっかり理解してから遺言書を作りましょう。
遺留分については、こちらの記事も参考にしてみてください。
遺留分とは?遺留分の対象者や割合、計算方法について解説!
注意点3.パートナーの他界後は遺言書を作り直す必要がある
夫婦相互遺言ならではの注意点ともいえるのが、配偶者が他界した後は遺言書を作り直さなければいけないこと。
夫婦相互遺言でなくても、遺言書は定期的に見直す必要があるものです。しかし夫婦相互遺言の場合は内容が内容だけに、パートナーの他界後は必ず作り直さなければいけません。
想像するだけで悲しくなる事態ではありますが、これは大切なことです。夫婦相互遺言を作る際には、パートナーの他界後には遺言書を作り直す必要があることをぜひ覚えておいてくださいね。
まとめ
今日は夫婦相互遺言を作るメリットと、夫婦で相互に遺言を作るときの注意点をお伝えしました。
子どもがおらず、かつ両親や祖父母といった直系尊属が既に他界している場合、夫婦相互遺言を作っておくことでお互いの遺産を全て配偶者に相続できる可能性があります。ただし、夫婦相互遺言を作るときは今日ご紹介した注意点に気を付けてくださいね。