誰かにお金や物をあげたりすると、それは贈与となり、その金額によっては贈与税が課税されます。これは親族間でも配偶者でも同じです。しかし、親族に贈与したときには贈与税がかからない、もしくは軽減される特例がいくつか設けられています。その中の一つが、夫婦間で居住用の不動産を贈与したときの特例(贈与税の配偶者控除)です。
目次
夫婦間で居住用の不動産を贈与したときの特例(贈与税の配偶者控除)とは?
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、自分が住むための不動産を贈与した場合や、自分が住むための不動産(対象となる不動産は国内の不動産に限られます)を購入するための資金を贈与した場合に、贈与税の110万円の基礎控除額のほかに最高2,000万円まで控除できるという特例が設けられています。この制度のことを贈与税の配偶者控除といいます。
なお、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、実際に居住し、その後も引き続き居住する見込でなければなりません。また、この特例の適用を受けるためには一定の書類を添付して、贈与税の申告をしなければなりません。
この制度を利用すれば、配偶者に最高2,110万円まで贈与をしたとしても贈与税はかかりません。
例えば、配偶者に不動産を取得するための資金として3,000万円の贈与をして、この特例を適用した場合、
(3,000万円-2,110万円)×40%-125万円=231万円
の贈与税がかかります。
この特例を適用しなかったときは、
(3,000万円-110万円)×50%-250万円=1,195万円
もの贈与税がかかってしまいます。
特例を使うことができるのに使わなかったときは大きな損をしてしまうこととなります。
贈与税の配偶者控除の特例を使って贈与をすると、その分だけ贈与した人の相続財産が減ることになりますので、相続対策(生前対策)の一つとして利用されることがあります。この他にも何らかの事情があって配偶者に名義を移しておきたいときにはこの特例を使うとよいでしょう。
建物または土地のどちらかを贈与したときでも適用できるか?
この特例の適用にあたって、建物と土地を一括して贈与を受ける必要はなく、建物のみまたは土地のみの贈与を受けたときでも、贈与税の配偶者控除の特例の適用を受けることができます。
なお、土地のみの贈与を受けたときで特例の適用を受けるためには、(1)夫婦のどちらかが建物を所有していること、または(2)贈与を受けた配偶者と同居する親族が建物を所有していること、のいずれかに当てはまらなければなりません。
例えば、土地を分割して一部分だけを贈与するようなときも、この要件に当てはまれば特例の対象となります。また、土地または建物、もしくは両方の持分を贈与する、といったときもこの特例を適用することができます。
例えば、土地建物の評価が4,000万円だったときに、全部贈与すると贈与税がかかりますが、持分1/2のみの贈与とすれば、贈与税が生じないこととなります。
贈与税の配偶者控除の特例のメリット・デメリットは?
贈与税の配偶者控除の特例のメリット
贈与税の配偶者控除の特例を利用して、配偶者に居住用の不動産を贈与しておけば、自身の死後、配偶者が住居に困るということがなくなります。
また、自身の相続財産を減らすことになりますので、使い方によっては相続税額を下げることができ、相続対策にもなるでしょう。
贈与税の配偶者控除の特例のデメリット
上記のようなメリットがある一方で、デメリットもあります。
不動産を取得するときの資金を贈与するときはよいのですが、不動産を贈与する場合には所有権移転登記に関する登録免許税や不動産取得税がかかります。また、登記変更を司法書士に依頼するときは司法書士に対する手数料も必要です。
相続で所有権が移転するときは不動産取得税はかかりませんし、登録免許税も贈与のときよりも少なくてすみます。不動産の名義変更のためにかかる費用は相続のときよりも多くなります。
相続税にも配偶者控除があります。それを使えば、実際には相続税の節税にならないのに、先に贈与したことで名義変更の不動産取得税や登録免許税が余分にかかってしまった、ということにもなりかねません。
相続税の節税を目的にこの制度を利用する場合には、しっかりとシミュレーションをして、トータルのコストが少なくなるかどうかを検討する必要があります。
また、この制度を適用できるのは同一の配偶者からの贈与は一生に一度限りとなります。
まとめ
夫婦間で居住用の不動産を贈与したときの特例(贈与税の配偶者控除)はメリットとデメリットがあります。デメリットも理解した上で、適用するかどうかを検討しましょう。