2018年度(平成30年度)税制改正において、小規模宅地等の特例についても要件の見直しが行われています。いわゆる家なき子スキームが封じられたり、一時貸付けの賃貸不動産が事業用宅地等から除外されるなど要件の厳格化が行われました。これらの税制改正のポイントについて税理士が解説します。2018年度(平成30年)の相続税関係税制改正の全体像については「平成30年度(2018年度)相続税・贈与税の税制改正のポイント」をご覧ください。
1.持ち家がない相続人等の要件の見直し(家なき子スキームが除外に)
相続税における小規模宅地等の特例は、被相続人の相続財産でもある宅地等を相続した相続人の事業や生活を維持することを目的として設けられています。
これまで、被相続人に配偶者がいない場合で、別居親族が、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けるには、「相続開始前3年以内に自己または配偶者所有の家屋に居住していないこと」が主な要件とされていました。
しかし、このことを利用して、例えば、特定居住用宅地等について、既に他に家屋を所有している相続人が、その家屋を居住しながら、その家屋の名義を自己や配偶者以外に変更し、持ち家がない状況を意図的に作ることによって、小規模宅地等の特例の適用を受けることも可能となっていました(いわゆる家なき子スキーム)。また、孫に対して被相続人の居住用宅地等を遺贈することにより、小規模宅地等の特例の適用を受けるケースも見られていました。
これらは小規模宅地等の特例の趣旨にそぐわないため、2018年度(平成30年)度税制改正で、持ち家に居住していない者に係る小規模宅地等の特例の対象者の範囲から次の者が除外されることとなりました。
・相続開始前3年以内にその者の三親等内の親族またはその親族と特別の関係のある法人が所有する家屋に居住したことがある者
・相続開始時に居住している家屋を過去に所有していたことがある者
この改正によっていわゆる家なき子スキームは封じられることとなりました。
なお、この改正は、2018年(平成30年)4月1日以後の相続・遺贈より適用されますが、2018年4月1日から2020年3月31日までの間に相続等でに経過措置対象宅地等がある場合には、
改正前の特例を適用することができるなどの経過措置が設けられています。
経過措置対象宅地等は、改正前の「相続開始前3年以内に自己又は自己の配偶者の所有する家屋に居住したことがない親族)を満たす特例対象宅地等に該当することとなる宅地等のことをいいます。
2.貸付事業用宅地等の要件の見直し
相続開始直前に貸付用不動産を購入し、貸付事業用宅地等として小規模宅地の特例を適用して相続税の課税価格を圧縮するという節税策が広く用いられることとなりました。この節税策を防ぐため、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供されたものは小規模宅地等の特例の対象から除外されることとなりました。
この改正は、2018年(平成30年)4月1日以後の相続・遺贈より適用されますが、経過措置により、平成30年(2018年)3月31日以前から貸し付けられている宅地等については、改正後の要件は適用されません。
3.介護医療院の追加
被相続人が介護医療院に入所したために被相続人の居住用ではなくなった家屋の敷地の用に供されていた宅地等について、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていたものとして小規模宅地等の特例が適用できることとされました。
なお、老人ホームに入所している場合は、従前から相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていたものとして小規模宅地等の特例を適用することができます。
この改正は、2018年(平成30年)4月1日以後の相続・遺贈より適用されます。
(関連記事)老人ホームに入所していた場合でも小規模宅地等の特例の適用を受けることができるか?
まとめ
2018年度(平成30年)度税制改正における、小規模宅地等の特例の要件の見直しについて解説しました。今回の改正は、主に制度の趣旨とは異なった利用のされ方を防ぐために行われたものです。タワーマンションを利用した相続税の節税、一般社団法人を利用した相続税の節税など、本来の制度趣旨と異なった使われ方をする節税策は、近年、次々と封じられてきています。相続税はそのような節税策を講じるのではなく、時間をかけて計画的に相続対策(生前対策)を行っていくことが大切でしょう。みんなの相続相談・大阪(運営:みんなの会計事務所)では相続対策の相談も承っております。お気軽にご相談ください。