近い将来身近で相続が起きる可能性がある、あるいは自分が死亡した後のことを考えてネットで調べごとをする機会があると思います。
その際、「相続人」や「法定相続人」、「推定相続人」など表現が異なる“相続人”が出てくることがあるので混乱する方がおられます。
これらはそれぞれ法的な意味や立場が異なるものですが、サイトによっては区別せずに使われていることもあるので余計な混乱をもたらします。違いを理解しておくことで惑わされずに済みますから、本章でこれらの違いについて詳しく解説します。
■法定相続人とは
法定相続人とは、「法律で定められた相続人となる権利のある者」を指します。
相続に関する基本的なルールを扱う民法という法律で規定されているため、“法定”相続人と言います。
以下で法定相続人と定められている人物を確認します。
①被相続人の配偶者
②被相続人の子:第一順位
③被相続人の直系尊属(親や祖父母など):第二順位
④被相続人の兄弟姉妹:第三順位
上記のうち、配偶者は生きてさえいれば相続権を持ちますが、②~④については順位制となっており、上順位者から順に相続権を獲得する仕組みになっています。
例えば、配偶者と子が生きていればこの両者が相続権を獲得し、直系尊属や兄弟姉妹が相続権を得ることはできません。
子がいない(出生の事実がない)場合に直系尊属に相続権が下り、直系尊属もいない場合にやっと兄弟姉妹に相続権が下りてくるという具合です。
加えて「代襲相続」という仕組みがあるので確認しておきます。
代襲相続とは、上記のうち②と④のみに認められるもので、被相続人の子や兄弟姉妹に相続権がある事案となる際、子や兄弟姉妹が相続発生時にすでに死亡している、あるいは欠格や排除によって相続権を失っている場合に、その下の世代が代わって相続権を引き継ぐルールをいいます。
例えば配偶者と②被相続人の子が本来相続権を得る事案において、子がすでに死亡している場合、順位的には直系尊属に相続権が移りそうです。
しかし、②被相続人の子にさらに子がおり(つまり被相続人から見て孫)、その者が生きている場合はその孫が相続権を得るため、直系尊属には相続権が下りてこないのです。
孫が死亡していても、ひ孫など下の世代がいる場合は相続権も順に下の世代に移っていきます。
この点、④の兄弟姉妹にも代襲相続は認められますが、こちらは1世代まで(つまり兄弟姉妹の子世代まで)しか代襲が認められない点に留意します。
以上が法定相続人の基本的な仕組みです。
では次に推定相続人とは何かについて見ていきます。
■推定相続人とは
推定相続人というのは、もし今相続が発生したとした場合、前項で見た法定相続人のルールの枠内で、現時点で相続権を得られるだろうと推定される人のことを言います。
ここからは事例を基に考えてみましょう。
ある男性Aがいて、配偶者と長男の他、生存中の両親と姉がいます。
もし、今の時点でAが死亡したと仮定すると、推定相続人は配偶者と長男(第一順位)です。
何もなければ実際にAが死亡した際に配偶者と長男が次項でみる相続人となりますが、事案によっては相続人とならないこともあります。
例えば、長男が相続放棄をすれば初めから相続人ではなかったものとみなされ、相続人にはなりません。
また、被相続人に対して虐待をするなどして推定相続人の廃除手続きが取られる可能性もあり、この場合も相続人にはなりません。
こうした特段の事情がないという前提で、現時点で相続が起きた場合に相続人となると見込まれる人物が推定相続人という扱いになります。
■相続人とは
では相続人とは何か、ということですが、これは様々な事情を考慮したうえで最終的に相続権を得た人物ということになります。
例えば、前項の例でいうと、推定相続人の長男が相続放棄をすれば、相続権は次順位の直系尊属に移ります。
従って、相続人は配偶者と直系尊属に最終的に確定することになります。
また、もし配偶者が被相続人を虐待するなどして推定相続人の廃除の手続きが取られたとしたら、配偶者は相続権を失い、結果的に相続人は第一順位の長男のみとなります。
このように、相続人というのは結果的に相続権を得た人物であり、実際に相続が起きた後でないと確定しない性質を有します。
相続放棄がされず、相続人の廃除や欠格で相続権を失うようなことがなければ、推定相続人=相続人となるので、あまり区別されないこともあるのですが、厳密にはこのように違いがあります。
推定相続人も相続人も、どちらも民法で規定された法定相続人の枠内に収まることになりますから、まずは法定相続人に関するルールを押さえることが大切になります。
■まとめ
本章では相続人と法定相続人、推定相続人の違いを横断的に見てきました。微妙な違いをイメージ的に押さえておくと正しい相続の理解につながります。ご自身に相続が起きた際の準備をするには、まず推定相続人は誰になるのかを考えることになります。
専門家に相談する前にご自身である程度の整理をすることにつながりますので、ぜひ試してみてください。