農地を相続や贈与したときも、原則として相続税や贈与税がかかります。しかし、多額の税金がかかると農業を継続することが難しくなるため、一定の場合に納税猶予することができる制度が設けられています。この納税猶予制度は平成28年度税制改正で大きな改正が行われました。今回は、農地等の贈与税・相続税の納税猶予制度の改正について税理士がポイントを解説します。
目次
農地等の贈与税・相続税の納税猶予制度とは?
農業を営んでいた被相続人から一定の農地等を相続した相続人が、引き続き農業を営む場合は、一定の要件の下にその取得した農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税額は、その相続人が農業を継続している場合に限り、相続税の納税が猶予されます。農地を貸付けしている場合も同様です。
農業相続人が死亡した場合や農業を20年間継続した場合などでは、猶予された相続税が免除されます。このため、農業を継続する場合は、実質的には相続税の免除を受けることができる制度であると言えます。
なお、この特例を受けるためには、納税猶予税額、利子税の額に見合う担保を提供することが必要です。また、納税猶予期間中は3年ごとに、引き続きこの特例の適用を受ける旨及び特例農地等に係る農業経営に関する事項等を記載した届出書を提出することが必要です。
贈与税においても、これとよく似た制度が設けられています。
平成28年度税制改正における農地等の贈与税・相続税の納税猶予制度の改正の内容
平成28年度税制改正により、農地等に関する贈与税・相続税の納税猶予制度が改正されました。
主な改正点は次のとおりです。
1.贈与税の納税猶予を受ける人の要件の改正
贈与税の納税猶予を受けるためには、贈与税の推定相続人のうちの1人で、一定の要件に該当するものとして農業委員会が証明した個人であることが必要です。
改正後の贈与税の納税猶予を受ける人の要件は次のとおりです。
贈与税の納税猶予を受ける人の要件
a.贈与を受けた日において、18歳以上であること
b.贈与を受けた日まで引き続き3年以上農業に従事していること
c.贈与を受けた後、速やかにその農地等で農業経営を行うこと
d.効率的かつ安定的な農業経営の基準として農林水産大臣が定めるものを満たす農業経営を行っていること
2.相続税・贈与税の納税猶予に係る確定事由の見直し
納税猶予を受けている農地等について、地上権、永小作権、使用貸借による権利や賃借権の設定があった場合には、納税猶予を受けている贈与税額または相続税額の全部または一部の納税猶予が打ち切られ、その税額と利子税を納付しなければなりません。
しかし、今回の改正で、納税猶予を受けている農地等に区分地上権(民法第 269 条の2第1項に規定する地上権)の設定があった場合であっても、引き続き耕作等を行うときは、納税猶予が継続されることになりました。
たとえば、農地等に区分地上権を設定し、太陽光パネルを設置した場合などで、引き続き、納税猶予を受けることができるようになります。
3.贈与税の特定貸付けの特例に係る適用要件の見直し
贈与税の納税猶予を受けている農地等について、賃借権等の設定により次のいずれかの貸付けが行われたときには、その設定がなかったもの(農業経営は廃止していないもの)として、引き続き贈与税の納税猶予が継続される特例があります。
対象となる貸付け
a.農地中間管理事業の推進に関する法律による農地中間管理事業のための貸付け
b.農業経営基盤強化促進法による農地利用集積円滑化事業のうち一定の事業のための貸付け
c.農業経営基盤強化促進法による農用地利用集積計画の定めによる貸付け
納税猶予の適用期間に関する要件
贈与税の納税猶予に係る贈与税の申告書の提出期限から貸付けが行われた日までの期間(適用期間)が 20 年(当該貸付けが行われた日において、納税猶予の適用を受ける受贈者が 65 歳以上である場合は、10 年)以上であること
今回の改正で、aの農地中間管理事業のための貸付けについては、納税猶予の適用期間に関する要件が不要となりました。
いずれの改正も平成28年4月1日以後適用されます。
まとめ
農地等の贈与税・相続税の納税猶予制度の改正について解説しました。特例を受けるための要件は細かく決められていますので、適用する際は事前に確認するようにしましょう。わからないときはみんなの相続相談・大阪まで、お気軽にご相談ください。